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giorni (番外)

シューマン音楽祭

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 東洋人ふたりが並ぶ姿は目を引いた。とくに年若い妻の長い髪ときめ細かな肌の美しさに、通りがかりのドイツ人が振り返るほどだった。ライプツィヒのホテルからタクシーに乗った彼らは、韓国出身の指揮者カン・ゴヌと数年前に結婚した妻で音楽学者の元でアシスタントをしているトゥ・ルミである。
結婚式
シューマン夫妻が結婚式を挙げたシェーネフェルト教会

SCHUMANN Festspiele

 カン・マエは妻が選んだが見立てたエクルー色のスーツを着て、渋めの緑のネクタイをしていた。
「先生、やっとデュッセルドルフ、ドレスデンに行けて良かったです」
 タクシーの後部座席でに座ると、トゥ・ルミは隣に寄り添うカン・ゴヌに、艶やかな笑みを向けた。ブルーデイジーを思わせる、光に当たると薄紫色が輝くワンピースに銀色のハイヒール。妻は、30才を超えて美しさが倍加したように、彼は思う。
「なんだ、はじめて来たみたいに言うんだな。これまで何度連れてきてやったことか、忘れたのか」
 彼は思いとは反対に、修学旅行中の女生徒のようにウキウキした妻に冷ややかに応えた。
「先生ったら、わかっているでしょう。仕事ではなく、全くのプライベートで来たのははじめてじゃないかしら?」
 実際そのとおり、異議などないのだが、夫はプイと顔を横に向ける。
「もう、先生ったら。時間ができたら、シューマン夫妻の住んだ街をたどってみたいって、ずっと言ったじゃない。もう」
 言っていた気もする。しかし、まるで遠い国に行くような漠然とした話で、彼はあまり気に留めていたなった。それだけではなく、ミュンヘンに住んでいれば、ライプツィヒ、ドレスデン、デュッセルドルフいずれも短い休みにひとつずつ訪れることができる。まとめて訪れる必要があるのか、と彼女の考えを頭の中では却下していたのだ。
「では、その理由を12述べてみろ」
 彼は眉をひそめ低い声で、かつてコンミスにすぎなった彼女に迫ったごとく。しかし、彼は今や妻となって久しい、トゥ・ルミに対しては全く違った感情を伴っていた。からかい半分、そして反応を見ること半分。余興と言ったら、絶対怒るだろうが。
「えっと……あの、ほら私の姉がシューマン夫妻のことを、よく私に話してくれて、えっと……とにかく、姉や友だちや、ほら、先生も共演したことのあるバイオリニストやピアニストのシューマニアーナの影響というのかな……だって先生、まれに見る、クラシック音楽に限らず、クララとロベルト、こんなに素晴らしい芸術家のカップルっていないじゃないだから……」
 相変わらず、要領を得ない話しっぷりだ。しかし、それを補ってあまりある真剣な表情で、気持ちは十分伝わってくる。夫になって、何が嬉しいかといえば、彼女のこうした反応を堪能できることである。からかえばムキになり、また、カン・マエの理解し難いつぶやきも、温かい表情で軽く受け止められるのはルミだけだ。
 彼は指折り数えながら、頭をひねる彼女を十分眺めると、尊大に口を開いた。
「まあ、いいとしよう。すでに、デュッセルドルフとドレスデンに行って、最終目的地に着いているのだからな」
 ルミは、クララ・シューマンのごとく従順なのか、彼のことばをそのまま受け取る。
「ええ、先生。クララとロベルトの移り住んだ街を逆にたどったから、最後のライプツィヒは一番幸せな新婚時代ね」
 カン・マエは、この街にある種の感慨を覚えて真剣にうなずいた。
 ライプツィヒは、ベートーベンが世を去ったのちのロマン派の時代において、特筆すべき都市である。
 リヒャルト・ワーグナーとクララ・シューマン(旧姓ヴィーク)はこの地で生まれ、青年ロベルト・シューマンはクララの父名教師であるフリードヒ・ヴィークの弟子になるべくやってきた。
 20代半ばのフェリックス・メンデルスゾーンは当時すでに伝統あるオーケストラ、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の指揮者として赴任した。ショパンやリストも、天才少女クララのピアノをはじめ、新鮮な音楽シーンを体験するために訪れた。その他多くの著名な作曲家や演奏家、ロベルトのようなこれからの音楽家たちを、惹きつけた。華やかさはないものの、中身の濃い交流がもたれたのだ。
 ルミは、スマートフォンの写真を見て頬を緩ませる。
「クララの生まれた家、結婚式を挙げた教会、インゼル通りの最初の住居、そして今日はゲヴァントハウス! なんという幸せ」
 カン・マエは、音楽家の人生やものの考え方にそれほど傾倒しない。音楽の解釈は楽譜が一番である。クララ・シューマンは作曲家でもあった。また夫の音楽を自らピアノ編曲して演奏会のたびに披露もした。つまりは、この夫妻の絆の強さは、指揮者で楽譜から音楽を読み取れるカン・マエにしたら自明の理である。もちろん、妻が自ら伝記を読んだり、シューマニアーナ、クララアーナたちとのおしゃべりで感銘を受けていることに、水を差しはしないが。
「それも、シューマン祭だからな」
 クララとロベルトの誕生日の間に、ゆかりの地で開かれる音楽祭のイニシアチブをとったのは、カン・マエの師であり、かつてチェリビダッケの高弟であった、クリストフ・ヤンセンだ。彼は毎回、メインプログラムを指揮してきたのだが、今回も短い曲にとどまる。ずいぶん前から体調を崩し、体力の回復は見込めない様子で、今後恩師の指揮姿を見られないかもしれない。カン・マエにはそれが、ライプツィヒへ来た一番の理由であった。
「ええ、ずっと楽しみにしてたの。あなたが先月指揮したロベルト・シューマンの交響曲第3番、ラインもあるわね」
「ああ」
「私は、クララ・シューマンのピアノ協奏曲が楽しみ。第2楽章が変わってるでしょ」
「……たしかにな、ピアノ独奏が長く続いてやっと出てくるのはチェロ。そこからはまるでチェロとピアノの小品だ」
「そうそう、それ。友だちに教えてもらったんだけど、あれはピアノがクララでチェロがロベルトなの。クララの人生に、ロベルトが登場する出会いの場面としたら、チェロが甘いのは当然ね、内気なふたりがゆっくり愛を育んでいるみたい」
 カン・マエは目をキラキラ輝かせて話す、ルミに微笑む。

 タクシーは、ゲヴァントハウスに到着した。車から降りるふたりに、大勢の視線が注がれる。そのなかに、カン・マエと同じ、ヤンセンに師事していた兄弟弟子を見つけた。トゥ・ルミの友人も来ていた。ミュンヘンで知り合ったアマチュア合唱団の団員である。見覚えのない初老の紳士が、カン・マエに声をかけた。
「先日のあなたの指揮で聴いた『ライン』はまことに見事でした。今回は出番はないようですな、実に残念です」
 音楽祭を前に、期待に胸を膨らませ、早くも上気する女性たち。ゲヴァントハウスのホワイエでは、音楽愛好家が知り合いを見つけ、おしゃべりを楽しんでいた。韓国出身の指揮者夫妻も、彼らと同様に素晴らしい音楽祭に期待し、何事もなくここへ来て古の美しい音楽を味わえる幸せを噛み締めていた。
 やがて、開演を告げるチャイム、1841年に初演されたロベルト・シューマンの交響曲第1番「春」の冒頭が鳴り響いた。
ゲヴァントハウス
ゲヴァントハウス




 

ロベルト・シューマン:交響曲第1番「春」 第1楽章
https://www.youtube.com/watch?v=VFvNriIDLrs
クララ・シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調 作品7 第2楽章
https://www.youtube.com/watch?v=v7m8rNoUKaE
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~ Comment ~

シューマンの調べに乗せて 

七海様

しっとりとしたステキなSS、ありがとうございましたv
数日前から再びシューマンの「マンフレッド」にはまりつつある私には、シューマンの世界観とあいまって、甘くもロマンチックな情感にひたりつつ拝読しました(マンフレッドはピアノないけど・・・苦笑)

「分かりやすく愛妻家で夫婦仲むつまじく」ってことが、性格上どうしてもできなくて、夫婦ふたりでいても仏頂面なカン・マエ。
でも、仕草だとか言葉のはしばしで周囲には妻溺愛してるのがバレバレですよー、という設定が大好きな私としては、
「ピアノとチェロ」のくだりで、目をきらきらさせて話すルミをカン・マエが微笑んで見ている場面が(映像として想像して)とても印象的でした。

あと
>妻は、30才を超えて美しさが倍加したように、彼は思う。
この一文が大っ好きですvvv

 

Re: シューマンの調べに乗せて 

リズ様

返信、たいへん遅くなりまして申し訳ありません。

リズ様そしてご家族の皆様、寒暖差の大きいこのごろですがお元気でしょうか。

私はこの冬、ひとつ自慢できることといえば、風邪やインフルエンザにやられなかったことです。
あ、でもまだわかりませんね。

> 数日前から再びシューマンの「マンフレッド」にはまりつつある私には、シューマンの世界観とあいまって、甘くもロマンチックな情感にひたりつつ拝読しました(マンフレッドはピアノないけど・・・苦笑)

リズ様が書かれたので、「マンフレッド」序曲を聴きながらPCに向かっております。
リズ様は序曲だけでなく、ぜんぶ聴いておられるのかしら? 


> 「分かりやすく愛妻家で夫婦仲むつまじく」ってことが、性格上どうしてもできなくて、夫婦ふたりでいても仏頂面なカン・マエ。
> でも、仕草だとか言葉のはしばしで周囲には妻溺愛してるのがバレバレですよー、という設定が大好きな私としては、
> 「ピアノとチェロ」のくだりで、目をきらきらさせて話すルミをカン・マエが微笑んで見ている場面が(映像として想像して)とても印象的でした。

微笑んでいる、と私が書くところは、すべてあの場面のカン・マエです。
指輪を渡すところ。
それも、こちらはすっかり夫婦ですからね!
もうもう、体温上がりそう、たまりませんねえ。

> あと
> >妻は、30才を超えて美しさが倍加したように、彼は思う。
> この一文が大っ好きですvvv

そーですかー、書いて良かった。
ちょっと、あまりに簡明すぎかな、と考えましたが。
リズ様のお褒めのことば、嬉しく受け取りました。

今、夜の9時すぎたところですが、冷えてきましたねえ。
どうぞご自愛くださいませ。

コメントありがとうございました。
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