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続・再会へ

アメリカ編 〔3〕デラウェア州へ

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 カン・マエの乗ったタクシーは、ジョン・F・ケネディ空港から一路デラウェア州に向けて走り出した。
 しばらくすると、トゥ・ルミからメールが届いた。彼は頬を緩めて、ゆっくりその長い指をスマートフォンに滑らせた。

ane
 
「先生、もうそちらを出られましたか。私のほうがだいぶ早く着きそうです。今、リムジンでご一緒しているのは、私の両親ぐらいな年齢のご夫妻。そして、もうひとり私より少し年上の女性です。少し話しましたが、感じの良い方たちです。車もとても乗り心地良いです。着く予定の空港が違ってしまって、先生のお顔を見るのが少しだけ延びたけど、あとは何の問題もありません。耳は聞こえないのは変わりませんが、でも頭痛やめまいがなくて助かっています。笑顔で先生を出迎えられそうでよかった。先生も快適でありますように」

 長旅にもかかわらずルミの体調が良いことに安堵したせいか、カン・マエは車の微かな揺れも心地よくなり、うつらうつらしてきた。
 眠くなるのも、ムリはない。ウィーンを長い期間留守にするため、それなりに片付けねばならないことがあり、あまり寝ていないのだ。コンサートなどの予定は当面組まれていなかったのは幸いで、ノルウェー・トロンハイムの公演の成功からのち指揮の依頼が殺到していたから、キャンセルという事態になれば成功がかえって問題を大きくしたかもしれなかった。
 彼のマネージメントを担うアーサー・ヤン・ハーロウと話し合ったり、前に引き受けていた音楽雑誌の原稿を書き上げたりしているうちに時間はあっという間に過ぎ、手早く荷物を詰め込んでウィーンを発ったのである。
 大西洋をまたぐフライト中は、シートをベッドにして横になったのだが、眠りは浅く結局何度も起きてしまった。中途半端になっている仕事がらみのこと、ルミの病状のことなど考えだしたらキリがなくなった。
  
 睡眠不足の上に、適度な車の揺れが役立ったようである。飛行機のファーストクラスのシートのように身体を横たえられないにもかかわらず、彼は深い眠りに落ちていった。
 
 カン・マエが移動しているアメリカの東部の州はエリアはほかの地域と比べてひとつひとつが狭く、地図上では細々無理に区切られているようにさえ見える。
 アメリカ合衆国の広さは、車での移動であるならばより理解しやすい。飛行機でひとっとびのところを陸路となれば、同じような風景がうんざりするほど続くからだ。
 目指すデラウエア医療センターは、その名のとおりデラウェア州にあり、その面積はアメリカの五十ある州のうち下から二番目にすぎない。メリーランド州のBMI(ボルティモア・ワシントン国際空港)から約百キロ。ニューヨーク州のJFK(ジョン・F・ケネディ国際空港)からは百五十キロ以上離れている。

 ルミが入院し手術を受ける病院は、デラウェア州内の有名企業が出資して創設された。最新の設備、入院設備の豪華さにより、国内外の富裕層が健康診断のために訪れる。脳外科伊のマイケル・ブライス教授はここの専任医師ではないが、やはり最新の設備が整っていることで月に何度かは執刀を引受けていた。
 カン・マエの乗るタクシーは、アメリカ東部を南へ南へ、真っ直ぐの長い道、丘を上っては下り、小さな町をいくつも通り抜けた。運転手がタバコを吸うために車を止めたときも、彼は客席のシートに身体を預けピクリともせず眠り続け た。
 
 
 三時間ほど経ち、外は夕暮れ近い時間になっていた。彼は深い眠りから覚めた。時計を見ると、到着予定の十五分ほどまえである。
 まだ身体に鈍さが残るが、よく眠れたせいか頭はすっきりしてきた。そして、すぐにスマートフォンを取り出したのは、ルミからの到着を知らせるメールを見るためだ。彼はゆっくり形の良い指を操作する。その表情が次第に険しく、こわばってきた。なぜなら、メールも電話も届いた形跡、履歴は見当たらなかったからである。
 カン・マエは眉根をぎゅっと寄せた。彼は、すぐにルミに電話をかけようかと思ったが、はっとして手を止めた。何ともしがたい胸騒ぎがした。

 今までを考えると、到着したならメールぐらいよこしてもいいはずだ。もしや、カン・マエがタクシーで眠っているので邪魔してはいけないとでも思ったのだろうか。まさか、と彼は思った。車中寝て過ごすなどわざわざ 知らせてはいないし、このところ寝不足だったこともルミのあずかり知らぬことだ。
 起きたばかりの身体に、血が急に巡りだしたのか彼の顔に赤みがさした。そして、上を仰いで右手の人差し指を額にあてた。

 どうしたことか。
 ルミ本人から連絡がこないとなれば、彼女の病状が悪化したか何かでスマートフォンすら操作できないほどなのだ。
 カン・マエは医療センターに電話をしようかと思ったが、タクシーはもうデラウェア州内に入っている。運転手にあとどれぐらいで到着するかカン・マエがたずねると、もう五分もかからないとの返事であった。

 デラウェア医療センターに到着したカン・マエは、荷物はそのまま早足でエントランスを抜け受付へ向かった。
 建物に入ると、広々とした美術館のようなロビーがあり、ゆったりしたソファーとサイドテーブルが備えられていた。一番奥のカウンターに受付の女性が座っている。
 カン・マエは、表面は平静を保って彼女にトゥ・ルミの所在をたずねた。
「少々お待ちください」と彼女はパソコンで何か操作をし、首をかしげた。そしてどこかに電話をかけた。その口調は重く、電話を切った彼女の表情は曇っている。

「まだ到着されていません」

 彼女がそう言うと、奥の事務所と思われる場所からイライラしたように電話が鳴り出した。
 カン・マエは静かにたずねた。
 
「もうとっくに着いていい時間だ、途中どこかへ寄るようなこともあるまい? 車はこの病院以外行くところなどないと思うが?」

「はいそうです、空港からこちらへの送迎用ですから。こちらも、今確認しているところなんです」

 確認している、とは所在不明ということか。車が着いていない上その理由も判然としないとは、明らかに異常だ。詳しく教えてくれとカン・マエは言ったが、彼女は、何か不測の事態が起きて到着が遅れていると告げるのみだ。
 
 不測の事態とは、事故なのか事件なのか……彼の心に暗い闇が広がるような不安に覆われた。
 
 ふっと息をついて、考えをまとめようとしていると着信音が鳴った、トゥ・ルミからかと思い表示を見るとミョンファンである。彼は頭をふりつつも、受信ボタンを押した。

「もしもしゴヌ、アメリカに来てるって?」

 いつもに増して、苛立つほど元気いっぱいで屈託のない声だ。カン・マエに皮肉を言うようなゆとりはなく短く応えた。

「……ああ」

「水臭いなあ、来るなら来るって知らせろよ」

「……ああ」

 ミョンファンは、JFKでたまたま会った弟子から、カン・マエが足取り軽く、機嫌良さそうな雰囲気で声もかけやすかったと聞いていただけに、反応の鈍さに違和感を持った。

「……おまえ、どうしたんだ? 具合でも悪いのか」

 カン・マエは曖昧に、まあなと返事をした。そしてミョンファンの近況報告を上の空で聞き流しながら、考えをまとめた。
 トゥ・ルミの所在がわからない今、待つより仕方がない身だ。かつてフィラデルフィアに二年ほど留学していたことがあるとはいえはるか昔のことで、今のカン・マエに頼りになるつてはない。迷いはしたが、広く人脈を持ち、今はアメリカで指揮者として根をおろしているチョン・ミョンファンに手を借りるのが最善だろう。
 
 カン・マエは調子よくしゃべり続けるミョンファンをさえぎって、これまでの経緯を短く説明した。
 
「え? 本当か? おまえ、女に会いに来たって? ついででもなんでもなく。いつも自分から動かないおまえが」

「そんなことは、いい。とにかく、今ここにいて当然のはずが、何がどうなったのか」

 カン・マエは力なく言った。

「そんな女がいつの間に……、あ、すまん。そうだな……」

「ああ、そうか、ノルウェーで、トロンハイムでおまえがマサユキ・チアキ氏の息子の嫁と見間違えて呆けた顔をしてた、その彼女か……」

 ミョンファンは、北欧の地でカン・マエと再会したときのことをまざまざと思い出した。そして、 長年の友情と畏敬の念すら抱くカン・ゴヌの大事な女性に何かあったらしいと思うと、ミョンファンはいたたまれなくなった。
 
 彼は神妙な声でたずねた。
 
「彼女がボルティモアの空港を出たのはどれぐらい前だ?」

「三時間ぐらいだ」

「わかった、地元の人間に当たってみよう」

 カン・マエは、できるだけ平静に言った。
 
「よろしく頼む」

 ミョンファンはニューヨークフィルのメンバーや関係者、弟子たちを思い浮かべた。アメリカ東部出身者、ジュリアード音楽院卒業者などかなりの数に登る。ミョンファンは、旧友の役に立てることがいろいろあることに気づいた。
 
「それから、弟子をひとりおまえに預ける。好きなように使え。俺も用事が済み次第行くからな。気をしっかり持ってろ」

「悪いな」

  強気な口調ばかりのカン・マエからは想像もつかない、沈んだ声だ。いつも凛として強いオーラを放つ彼が、今はどんな顔でいるのだろうと思うと、ミョンファンは胸が痛みうなだれた。彼は革張りの大きな椅子から立ち上がり、マンハッタンのオフィスの窓から南の空を見つめた。そして、再び机に戻り、次々と電話をかけはじめた。




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