FC2ブログ

スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←グラン・パルティータ 第二話 →グラン・パルティータ 第四話
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 続・再会へ
もくじ  3kaku_s_L.png note
もくじ  3kaku_s_L.png giorni (番外)
もくじ  3kaku_s_L.png お礼
もくじ  3kaku_s_L.png お詫び
もくじ  3kaku_s_L.png ミョンミンssi
もくじ  3kaku_s_L.png 私信
  • 【グラン・パルティータ 第二話】へ
  • 【グラン・パルティータ 第四話】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

Breve Intermedi(短編・再会後)

グラン・パルティータ 第三話

 ←グラン・パルティータ 第二話 →グラン・パルティータ 第四話
 カン・マエは、朝からウィーンのマクダウェル音楽事務所で契約のことやさまざまな仕事のオファーなど、ツアーに出ている間にたまった雑用をこなすことになっていた。


Wolfgang Amadeus Mozart:Serenade No.10 “Gran Partita” 3


 ミュンヘンフィルハーモニーとの正式契約も間近になり、細かな条件の調整の必要もあった。おおまかには、彼の担当であるアーサー・ヤン・ハーロウが交渉済みで、実際話し合いが必要な案件はかなり絞られていた。
 音楽に直接関わらないが、これも大事なことだ。若い頃はしっかり契約を確認しなかったばかりに、当日になって驚くようなことがあった。似たような名前の会場で、ずっと劣悪な音響のもとで演奏する羽目になったり、ギャラの桁を間違えていたり。それが、音楽を愛する人たちの期待を裏切ことにもなりかねない。だからヤン・ハーロウと二人で小さな字も見逃さないように確認し、必要があれば精査吟味している。
 
 昼休みに入って、事務所のスタッフは順番に昼食に出はじめた。会議室にいるカン・マエたちは、それに気が付かず書類とにらめっこだ。片付いた案件の書類は、テーブルの隅へ次々と重ねられた。
 
 カン・マエの携帯電話が着信を知らせた。ルミからの電話だとわかると、顔を曇らせた。 
 朝からの打ち合わせに没頭して時間の感覚がなくなり、ルミとの約束の時間が過ぎてしまったことに気がついたからだ。
 

「ああ、まだ仕事だ。すぐ行くから待っていろ」

 カン・マエの言葉はいつも通りだが、何となく語尾に甘さが感じられ、電話を切った彼にヤン・ハーロウは訊ねた。

「ルミさんですか?」

「ああ、そうだ。昼までに打ち合わせが終わるものと思って、レストランに連れていく約束をしていた」

「それは、ルミさん可哀そうに」

 そう言うヤン・ハーロウの眉を八の字にした表情に、カン・マエは幾分気が咎めた。ルミは仕事だとわかっているので、待たせて当たり前に思っているのだ。

「ヤンも一緒にどうだ?」

 ヤン・ハーロウは小さく驚く。

「シェフ、遠慮しますよ。時間に遅れた上にお邪魔虫までくっついていいったら、ますますルミさんが可哀そうだ」

 お邪魔虫どころか、ルミはカン・マエが誰か連れてくると反対にとても喜ぶのだ。しかしカン・マエはうまく言葉にできず、頭を振るのみ。ヤンは上着を羽織って、先に出て行こうとする、その背中に向かって彼は言った。

「あとは、仕分けしておいてくれないか。残りは家に持ち帰る」

 ヤン・ハーロウは、背中向きのまま左手を上げて返事をした。

 
 5月の柔らかい風が吹く、街角。観光にも良いシーズンがやってきて、通りはにぎわい始めた。待ち合わせのスワロフスキーのショップの前で、ルミは本を広げて立っていた。
 クリーム色のAラインのワンピースに薄茶のバッグは、あれこれ迷った挙句に選んだものだ。どきどき顔を上げて、視線を遠くにやる。その視線の先に、愛する男が現れるとルミの表情はパッと輝いた。
  
 カン・マエは、白い歯を見せてこぼれるような笑顔のルミがあまりに可愛らしく、それが自分の恋人であることの幸せが心に満ちる。 

「待たせて、悪かったな」

 珍しく彼が素直に詫びると、ルミは頭を左右に振り笑顔のまま応える。

「待ってる間も、楽しかったわ」

「そうか?」

「そうよ。ドキドキできて。先生の姿が見えたらすごく嬉しかった」

 ルミは並んで横を歩くカン・マエを見上げて言った。彼はそんなルミに優しい微笑みで応えた。
 
 
 二人はタクシーで新市街の高層ビルへ向かった。その最上階にあるレストランの窓際の席を予約してある。

最上階へ直通のエレベーターの、開いたドアからバラの香りが広がった。家族であろう五、六人の人々のうち老婦人が、何かの記念日だったのか濃淡のバラの大きな花束を抱えていたのだ。

 彼らが降りたあと、エレベーターのなかは、カン・マエとルミの二人。

「いい香りね」

 ルミは嬉しそうに言う、その唇。カン・マエは婦人の抱えていた薄い色のバラと同じ色であることに気づいた。

 日本製のエレベーターは、なめらかに上階へ向かっていく。動いていることは、出入り口の上にある表示のランプでわかるぐらいだ。

 カン・マエとルミ以外に誰も乗っていないので、ルミは彼に寄りかかった。
 そんな彼女にカン・マエはバラの香りにあおられてか、ルミの唇に自分の唇をすっと重ねた。ルミは驚いて、顔をそらす。

「先生!」

「大丈夫だ、このエレベーターは上までノンストップだ」

「ああ、びっくりした~。でもすごくドキドキしたわ。じゃ、続きを先生」

 ルミは目を閉じて、顎を上げた。
 カン・マエは広角を上げ、エレベーターの階数表示を一瞥してもう一度、ルミにキスをした。

 最上階でエレベーターが開いたとき、二人はカップルとして不自然なほど離れていた。ルミは、顔を真っ赤にして下を向いているので乗り込もうとしていた、若いカップルの訝しげな視線を浴びることになった。
 カン・マエは何食わぬ顔で、ルミを促してエレベーターを降りた。
 

「こんなことで、そこまで赤くなるか。変に思われたぞ」

 カン・マエが言うとルミは下を向いたまま首を左右に振る。

「じゃ、もう二度とエレベーターの中はなしだ」

 ルミは今度はもっと勢いよく首を左右に振った。

 カン・マエは頬が染まったままの彼女を見て、呆れたようにしかし幸せそうに小さく笑った。



 


関連記事
スポンサーサイト
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 続・再会へ
もくじ  3kaku_s_L.png note
もくじ  3kaku_s_L.png giorni (番外)
もくじ  3kaku_s_L.png お礼
もくじ  3kaku_s_L.png お詫び
もくじ  3kaku_s_L.png ミョンミンssi
もくじ  3kaku_s_L.png 私信
  • 【グラン・パルティータ 第二話】へ
  • 【グラン・パルティータ 第四話】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【グラン・パルティータ 第二話】へ
  • 【グラン・パルティータ 第四話】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。