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Breve Intermedi(短編・再会後)

クロンマー:2つのクラリネットのための協奏曲 Op. 91 

 ←クロンマー:2つのクラリネットのための協奏曲 Op. 91 まえがき →「改過遷善」初回放送見ました!
 春の雨空のある日のこと。ウィーン四区にあるカン・マエの住まい、重厚な石造りのアウトバウの一角。
キッチンの続きに置かれたダイニングテーブルに向かい合ってカン・マエとトゥ・ルミは昼食を終え、リビングのゆったりした応接セットに移り、カン・マエはエスプレッソを味わっていた。朝着ていたカーディガンを脱ぎ、チェックのコットンのシャツの袖口を捲っていた。ルミはエプロンを外し、友だちにもらったアップルティーを彼女の愛用のカップに注いだところだ。
 
 この部屋のオーディオから数日後招待されている演奏会の曲目リストにある、クロンマーのふたつのクラリネットのための協奏曲が流れていた。
 モーツアルトやベートーベンと同時代のボヘミア出身のクロンマーは、聖堂や軍、貴族のもとで楽長を務め、皇室専属作曲家の称号を得たという。経歴から世あたり上手であったことが伺え、また作曲家としては三百を超える作品を残した。この曲は意外性は微塵もなく、王侯貴族に好まれる、明るく軽妙なテンポで進んでいく。
  
 遠距離恋愛も一年が過ぎようとしている、何度目かのウィーン滞在。初々しさがなくなった分、ルミにとってここウィーンのカン・マエの住まいが自分の家のように自然に気を緩ませられる場所になっていた。
 彼にとっても、ルミと向かい合って食事をしたり、リビングで何とはなしに過ごすことがごく当たり前になっていた。
 

 Krommer:Concerto for Two Clarinets,Op. 91
 

 

「ねえ、先生、どうしてマエストロ・ヤンセンとマエストロ・ティーレは同じオランダ人なのに、仲が良くないの?」
 ルミは、たあいない日常のことから急に話を変えた。
 それはおそらく、ルミだけでなくオーケストラ指揮者に興味があれば誰でも一度は考えることだ。しかし、ルミはカン・マエがヤンセンから最初に指揮法を習ったことを知って、興味本位で聞くのがずっとためらわれた。いつか訊ねてみたいと思っていたのが、口をついて出てしまった。
 
 その質問にルミの予想通り不機嫌そうに応える十五歳年上の彼も、「マエストロ」と呼ばれるようになって久しい。
「さあな。ミョンファンと私みたいなものだ」
 さほどの考えもない一言で、それにしてはばかにきっぱりと言い切った。
 ルミは軽く流されたと感じ、当然面白くない。
「あら、みたいって、おかしいわ。全然違うでしょ? ミョンファン先生は先生のことを、とても尊敬していると思うわ。いつもそう言っているのに、先生が邪険にするのよね」
 アメリカの名門オーケストラ、ニューヨークフィルハーモニックの指揮者となったチョン・ミョンファンは、訪欧の際は必ずカン・マエに連絡をしてくる。そして、ルミも一緒に何度か食事に招かれた。そんな折に、韓国出身の二人の指揮者のこれまでのことを知ることとなった。
 そして、人気や世間の評価ではずっと上にあるミョンファンが、実力ではカン・マエに敵わないと思っていることも。
  
 平穏な午後であった――――。そして、すぐに甘い午後になるはずだった、彼の目論見は今のところ外れている。
 
 カン・マエはこの日、いつも以上に目覚めが良く、朝から書斎にこもって、依頼のあった仕事を片付けた。ちょっとはかどらないと、防音室へ行ってピアノを弾きまた書斎に戻るのだが、この日はスムーズに終えて机の上に並んだ書類をきちんとフォルダに戻した。
 ルミが掃除をすると言っても、この部屋だけは彼自身が行っている。頼んでいる家政婦にも同様であるのは、置いたものが寸分たがわずそのままでないと気がすまないからだ。
 この部屋には楽譜や音楽関係の彼にとっては宝物の保管場所でもあり、一人でいても歴代の作曲家や指揮者たちに守られているような感覚にすらなる。
 ルミも彼がこの部屋で仕事に没頭しているときは、電話が来ても取り次がずできるだけ雑音が入らないように気をつけていた。遠距離恋愛であればこそ、ルミは彼の生活のペースがわかるにつれ、たまにやってきて乱すことのないようにしているつもりだ。
 
 遠い韓国から来る年若の恋人の、そんな配慮をカン・マエは薄々気が付いていたが、カン・マエは若いルミを侮っているのか、感謝するどころかさらに彼女を自分の都合の良いようにしたいらしい。
 カン・マエもただの男。しかし、ルミは彼の不遜な態度も自分にしか見せない直情さとして尚更愛していた。
 
 ルミがアップルティーを飲み干したときに、オフショルダーのカットソーからきれいな鎖骨がのぞき、彼は思わず触れたい衝動に駆られ手を伸ばそうとした。
 しかし、ルミはどうしても話したいことがあり、気配をはねのけるように言った。 
「同じ国出身で、同じ仕事をしているのに、得難い仲間だとは思えないのね。やはりライバル心? 先生は、ミョンファン先生にいつも先を越されて、悔しいのね」
 ルミは飲み終わったカップを片付けるために立ち上がり、キッチンから戻ってもそのまま彼を見下ろす。
 
 カン・マエは彼女の挑発的ことばよりも、つまらぬ話が終わらないことにイライラしていた。
 
 「おまえ、突っ立ってないで座ったらどうだ」 
 彼はせっかちに彼女の手をひいて、隣に座らせ肩をしっかり抱いた。ルミは唐突な彼に、目をパチクリさせ、身体をずらして逃れようとするが、彼はそうさせまいと反射的に腕に力をこめた。
「せ、先生。ちょっと、ちょっと待って」
 ルミのことばを遮るように、彼は自らの唇でルミの唇をふさいだ。ルミの身体はキス一つで、いかようにもなる。これでよし、つまらぬおしゃべりは後回しだ、と彼は心の内でほくそ笑む。
 
 しかし、いつもとは違い、ルミは恋人の唇の柔らかさを感じながらも、軽く受けるといった感じですっと離れた。
 彼は眉をひそめるが、彼女にしたらまだ話の続きが終わっていないのだ。
 ルミは緩んだ彼の腕から逃れることに成功し、するりと立ち上がって再び彼を見下ろす。
 
「先生、ちょっと、まだお話は終わっていません」
 ルミの口調があまりに冷静で、彼は罰が悪くなったが、むろん何事もないような顔で彼女を見上げた。
「何? 話だって? 男同士仲が悪かろうと良かろうと、かまわないだろうが」
「違うの、先生。私、この間飛行機のなかで本を読んでいてね、何か引っかっかるっていうか、気になっていたんだけど、今やっとその答えが出たの」

 彼は、ルミは言いたくて言いたくてしかたないことがあるのに、それを脇に置くのは難しいことをを思い出した。多くの女たちがそうであるように。
 どれだけ物質的にも精神的にも心を満たしていても、おしゃべりは別の次元であるらしい。
 彼女の頭に占めていることを、すっかり口から出してしまえば何も二人を遮るものはないのだと、彼はずっと年上の、女の扱いに慣れた男としての余裕は十分持ち合わせているつもりである。
 
「答えとは?」
 カン・マエのせっかちな問いに、ルミは笑った。
「なんだ、いいぞ聞くから言ってみろ」
「あのね、先生、飛行機のなかでね、ミステリーを読んだの」
わざとらしく目を見開いて驚いたように、彼は応える。
「雑誌か、ご都合主義の恋愛小説ばかり読んでいるのに、珍しいな」
 ルミはその手にはのらず、頬を膨らますことなく応えた。
「え、もう、違いますよ、先生。本をお貸ししましょうか?」
「忙しいから、いい。ちなみに何を読んだか聞いておくか」
 横柄な物言いはいつものことで、ルミはかえって微笑んでいるぐらいだ。
「はあ、まあ、いいですけど、あの、飛行機のなかでスェーデンの警察小説を読んだんですよ」
「警察小説……スェーデン……、もしかしてマイ・シューヴァル、ペール・ヴァールーの書いたシリーズ物か?」
 ルミは目を丸くした。
「えっ、先生もマルティン・ベックシリーズを読んだんですか」
「ああ」
「先生もミステリーを読むんですね?!」
 ルミはエンターテインメント系を読む彼が想像できず、とても不思議そうだが、彼はさらりと言った。
「ああ、学生時代にな。どうしても、早く英文を読めるようになりたかったからだ。おまえこそ、かなり前の小説だが?」
「ええ、テジョンの実家の本棚にあって……、母が長いフライトの間にちょうどいいって勧めてくれたの」
 カン・マエは、そうかと言うように頷いた。
 確かに、ミステリーはまとまった退屈な時間を没頭して過ごすのにうってつけだ。彼も若い頃は、英語やドイツ語のミステリーを読んだものである。先が気になるので、どんどん読みたくなり、結果語学の勉強に役に立ったことも覚えている。

「それが、どうかしたのか」
「ああ、そうなの、あの小説、ストーリーももちろん面白くってどんどん先へ進んじゃうんだけど、ときどき唸ってしまいたくなるような含蓄のあるエピソードがね、こころに残って」
 カン・マエは話が長くなりそうで、うんざりしかかっていたが、顔に出さず頷いて先を促した。 
「ことばが通じるようになったら、かえってよそよそしくなったって。何のためのコミュニケーションなんだか」
「そんな場面があったか?」
「筋には直接関係ないから……違う国でことばの通じない警官二人が捜査協力をするところがあるの。お互い同じ仕事だし分かり合える相手だと思っていたんだって。それで、語学の勉強をしてかなりことばがわかるようになって再会したら、考えの違いがたくさんあることがはっきりしてしまったの」
「まあ、それはありそうだな。それで、そもそも……」
「そうそう、マエストロ・ヤンセンと、マエストロ・ティーレって、同じオランダ人で若い頃から指揮者として有名で、きっと誰よりも相手のことがわかりすぎちゃうから、ダメなのかなって」
 カン・マエはこころから呆れたようにふーっと息を漏らした。
「おまえなあ。そんな単純な話ではないぞ。あの二人が反りが合わないのはいろいろ経緯があるんだ」
「そうなの?」
「とはいえ、世間で取り沙汰されるようなものではないな。犬猿の仲というのはかなり誇張されている。普通の範疇だと思うが。摩擦があるのは、それだけ近い存在だということだ」
「じゃ、まわりが騒いでるだけ?」
「そうだ、しかしそれも昔の話だ」
 大したことではないように、片付けられてルミは少しがっかりした。少しはなるほど、と言って欲しかったのである。
 マエストロ・ティーレは、ルミは知らないがミョンファンの師匠である。しかし、カン・マエは話を長引かせたくないので、あえて言わなかった。
 
「まあ、でもあの小説は確かに、いろいろ示唆に富んでいて面白いことは確かだな」
「ことばが通じるって、不便なこともあるのね」
「まあ、そうかもしれないな」
 ルミはカン・マエのさりげない同意に満足たのか、口元をほころばせた。
「先生」
 カン・マエは、ルミの声に甘さを感じた。
「先生と私は大丈夫よね」
 ルミは当然肯定されるものと思って訊ねている。
「さあ、どうかな」
 ルミは期待した返事ではないので、むくれた。
「先生ってもう、女心をわかってくれないの」
「そのほうが、いいぞ。なまじわかりあえば、うまくいかないこともある。おまえ、あの場面から学ぶべきは、そういうことだろ?」
 やれやれ、とルミはため息をついた。理屈で彼に敵うわけはないのだ、きっとこれからも。そう思うとルミは面白くない。
 カン・マエは満足そうに広角を上げて、そんなルミを見つめた。
 
 少々面白くはないが、ルミはその視線に今度こそ捕らえられてしまった。 
 ルミはカン・マエの左隣に座り、彼の厚い胸に身体を傾けた。さらりとした髪から漂う甘い香りが、カン・マエの鼻腔に届く。彼は腕を回し、左手で髪を梳くようになでると、ルミはそっと目を閉じた。
 
 協奏曲のテンポの早い第三楽章が続くなか、カン・マエの美しい手はルミの身体をていねいに可愛がり続ける。再生が終り音楽が止むと、繰り返される濃厚なキスと次第に荒くなる息遣いの、艶かしい音が際立つ。長く深い口づけの間にもれる、年若い恋人のかすかなソプラノは心地よく男の耳をくすぐった。


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