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Breve Intermedi(短編・再会後)

白い恋人たち

 ←白い恋人たち  まえがき →ご訪問への感謝、短い2月との惜別
ご訪問ありがとうございます。

こんな時間になってしまいました。
ギリギリバレンタインデーですが、本当にお待たせいたしました!

今回のSSより遡ること一年前のバレンタインデーのSS。
関連がありますのでよろしければ先にお読みください。
Valse des fleurs<花のワルツ> 前篇
中篇、後篇へはそれぞれのページの下方にリンクされています。



13 Jours en France


 2011年2月14日。
 
 カン・マエと彼の十五年若い恋人は、オーストリアと韓国と遠い距離を隔てて過ごすこととなった。
 昨年の花に溢れたその日とはまるで違い、築年数をかなり経て重厚さが増したアウトバウの一角にある広い部屋にひとり。彼はリビングルームのアンティーク調のテーブルに置かれたパソコンに写る、お菓子を前にニコニコしているトゥ・ルミを目を細めて見ていた。

「そんなに食べると、太るぞ。知らないからな」
 何もわざわざ言う必要もないのに、無駄口を叩いてしまうのは、装置に向かっているからかもしれない、いまいましいとカン・マエは思う。
 いつもの口調にルミはやはりいつものごとく口を尖らせる。
「先生もせっかく私が腕によりをかけて作ったチョコレート、贈ったワインと一緒に味わってくださいね。ワインの銘柄もちゃんと考えたんですよ」
 カン・マエは軽く頷くと立ちあがって、ワイングラスにボルドー産のサン・テステフをついだ。ボトルを立てて澱を沈ませる必要があることも考えて、一週間前には市内のワインショップから届けられるようルミはぬかりなく手配したものだ。カン・マエは恋人からのプレゼントをデキャンターに移し、味を整えていた。
「じゃ、私も」
 ルミもワイングラスに赤ワインを用意してあった。
「あまり、飲むなよ」
「わかっています、一口だけ。あとは紅茶にしておきます」
「では、乾杯するか」
「はい!」
 二人は画面に向かってグラスを少し傾けた。
「先生、離ればなれとは思えませんね。すぐ近くの街にでもいるみたい」
 そんなに近くならわざわざパソコンを通して向かい合うことなどないはずだが、カン・マエは小さく笑みを浮かべただけだ。

 
 ルミはうっとりした目で言った。 
「先生、昨年のバレンタインは、最高でしたね」
 ウィーンの今カン・マエがひとりでいるこの部屋は、アレンジフラワーで床が埋め尽くされ、暖炉の炎も心地よくゆらめいていた。そして何よりも違うのは、二人が一緒に過ごせたことだ。
 しかし、やはり女にとって思い出と言えば華々しいことが大事なのだろう。カン・マエはルミがたくさんの花に囲まれてそれまで見たこともないような弾けんばかりの笑顔だったことが甦る。
 あれから、何度ルミは口にしたことだろう。
「あんなにたくさんの花、もらったことない」「愛されているんだわーってすごく感じた」「世界に向かって私はしあわせーって叫びたい」「ありがとう、先生。先生がこんなことをしてくれるなんて」「いつか花を踏みつけたこと、覚えています? もうすっかり帳消しになりました! いえたくさんお釣りがでますよ」などなど。
 最初はお節介やきの指揮者の手配ミスをありがたく思ったが、あまりにルミが嬉しがるのでだんだん気が咎めてきたカン・マエであった。最近雰囲気が柔らかくなったとか、変わったなどと周囲の者たちは言うが、どこをどうやってもあんなに沢山の花をどんな理由があれ一度に贈るような人間ではないし、これからそうなるとはとても思えない。
 ルミが口にしなければいいものを、何かにつけて思い出して口にするので、終わった出来事として遠ざかることができないままだ。むしろ、最近は彼女を何かだましているような居心地の悪さすら感じる。
 しかし、今更どうにもしようがない。説明するのも無粋でそれこそ彼らしくない。
 もっとも彼らしくないのは、ぐずぐずといつまでもこのように考えていることだ。決断力を発揮してきたのは、仕事の上だけではない。私生活全般に至っても、ばっさりと余計な考えは捨てられたはずなのに。

 
 ルミは恋人に贈ったチョコレートと同じものを口に入れて、しばらくその甘さを楽しんでいる。そして、再び話し始めた。 
「先生、もうすぐですね。一緒に暮らせるの」
「ああ」
「私、何でも先生に話しますね」
「細かいことはいいぞ、いちいち話さなくても。小学生が親に話すわけではなかろう」
「あら、話したいなー。先生は聞いてくれないんですか?」
「あ、いや、そんなこともないが」
「先生。私に隠していることはないですよね」
「もちろんだ」
「バレンタインですから、何でも許しますよ。私がいない間に、素敵なレストランでご馳走を食べたとか」
「そんな心配か」
「これは冗談ですよ、きれいなソリストの人と一緒に行ったとか」
「まず二人きりでは行かないだろうな。ハーロウか社長かスタッフの誰かも一緒だ」
「そうですね、先生の言うことは何でも信じます」
 ルミは大きな目で彼をじっと見ている。
 聖バレンタインズデー。愛を伝え合う特別な日。そう思えばこそ、いつもとは違う自分を許せそうだ、と思慮深い彼にしては思いつきを実行に移した、それも特別な日ゆえか。
「ルミ」
「はい、先生」
「実はな。去年贈ったバレンタインの花のことだが」
「はい」
「あれは、ミョンファンが勝手に手配したんだ」
「はい」
 パソコンのなかのルミは、驚くふうもなく頷いた。
「知っていたのか」
 カン・マエは驚きを隠さずに言葉を継いだ。
「……あの、ミョンファン先生が」
 ルミは反応を予想してか、おずおずと答える。
「あいつは本当にどこまで」
「いえ、そうじゃなく。私がカマかけたんですよ。あんなにたくさんの花をもらってすごく嬉しかったけど、時間が経って先生をもっとよく知るようになって、何か違うような気がして」
 ルミは目をしばたたいた。
「まさか、先生が打ち明けてくれるなんて。きっと先生には大したことじゃないから、忘れていると思っていました」
 カン・マエはどんな顔をしてよいのかわからないままである。
「いや、まあ、なんだ。忘れてはいないが」
「先生、とにかく言ってくれてよかったです。ちゃんと、覚えていてくれて、いえ、それだけでなく気にしていてくれたんですね」
 カン・マエは肩の力が抜けたように感じた。それほどのこともないと思っていたが、実際はしっかり悩みの種になっていたようである。
 ルミはものごとを単純に考えるとばかり思っていたが、遠距離であっても年月を積み重ねもしかしたら本人以上によく理解していることもあるらしいと感じられ、彼は胸がいっぱいになった。

 
 ルミは仕上げに入っているフランシス・レイの「フランスの十三日間」のテーマ編曲について話し始めた。カン・マエは今度は専門的なところから、遠慮会釈なくダメ出しを連発する。ルミも一生懸命、あきらめずに説明を続けた。
 発表は今月末にあり、それが認められれば音大の大学院の終了である。
「先生、知っています? この映画、日本では白い恋人たちって呼ばれているそうです。編曲するから映画を観たんですけど、白さが目に焼きついて、このタイトルを考えた人は競技する選手がそんなふうに写ったんですね」
「そうか? 私は日本人は情感に訴えられると弱いから、興行的見地から考えたように思うが」
「先生ったら、まったく……今日はバレンタインデーですよ、ロマンティックじゃなんだから」
 カン・マエは力んでしゃべるルミを、満足そうに見ていた。
「じゃあ先生、来年のバレンタインは一緒にこの映画を見ましょうよ。外が雪だったりしたら、さらにいい感じ~」
「そうか? よくわからんが、今から決めておくなど早すぎないか?」
「別々のバレンタインだもの、せめて先の計画を立てたら楽しいじゃない」
 ルミは今度はどんなチョコレートにしようか、どうやって過ごすかあれこれ思いついたことを話し始めた。

 
 ルミの部屋のドアを誰かが叩いているらしい。ルミは「ちょっと待ってて」と言ってパソコンから離れたので、画面には座っていた椅子の背もたれが写っている。

 
 カン・マエがデキャンタから三杯目のワインをついで味わっていると、ルミがパソコンの前に戻ってきた。可愛らしいラッピングがされた大きな花束を抱えている。白と薄ピンクのバラの間に、ガーベラでも、ラナンキュラスでもない、見慣れない深い色の花が混じっていた。
「先生、これ……」
 ルミは両腕に抱えた花をカメラに向けていた。
「ああ、そうだ。今度はまともに贈れたようだ」
「えー、自分で注文したの」
 ルミの顔は甘く緩む。
「当たり前だ。難しいことではないだろ」
 カン・マエはふっと横を向いた。パソコンの前でそれをしても、あまり意味はないがいつもの癖だ。次の瞬間に彼が恋人の顔を見たとき、彼女の眼には涙が浮かんでいた。
「先生、ありがとう。本当に、嬉しい。きれいなお花ばかりね」
「ゆっくり楽しめ、間違いなく私からのものだ」
 ルミは涙を拭い、大きな目でじっと花を眺めている。そして、カン・ゴヌの名が載ったカードとは別に花言葉の説明書きがついていることに気がついた。ルミはふたつ折りのその紙を開いて読んだ。ルミの目は再び潤み、白い頬が紅潮してきた。そして、大きく明るいため息をつく。
「先生、この濃い色の花、チョコレートコスモス……花言葉がすてき」
「そうか」
 カン・マエは数日前にウィーンの花屋で細々説明を受けたことを思い出した。そして、その言葉もやはり彼が彼女に今日贈りたいものであった。
「ええ。移り変わらぬ気持ちって」

 単に花言葉。しかしこの言葉は二人の感情を深く揺らすのに、十分だった。どんなに遠くにいても真実の想いとそれを伝えるたったひと言があれば、人は大きな大きな幸せを感じることができるのだろう。
 ルミはポロポロ涙をこぼしながらも、目の前のしかし実際は距離を隔てたところにいる愛しい男に、最高の笑顔を見せた。そして、それは彼にとって一番のバレンタインの贈り物であった。




チョコレートコスモス
お読みいただいたあなたに、愛あふれる素晴らしい瞬間がたくさん訪れますように。
                  2014. 2.14 聖バレンタインズデー  七海
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