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giorni (番外)

バッハのシシリエンヌ 1

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お待たせしました、紅葉編。
長くなりましてさらに書き加えていますので、何回かに分けます。

タイトルのシシリエンヌは古い舞曲の一つでシシリア―ナ、シシリアーノとも言います。
シシリア(シチリア)風に、とかシシリア舞曲ということのようです。

以下オーケストラとピアノ、フルートとピアノでタイトルの曲は楽しめますので、よろしかったら、聴いてみてください。
http://www.youtube.com/watch?v=Pk0xAju0ez4
http://www.youtube.com/watch?v=xHZfY6yIxu0
http://www.youtube.com/watch?v=OLGFwLHgJ2Y

ですがこの回はまだ秋になっていませんので、この音楽は合いませんねー。

そうそう、カン・マエの所属するマクダウェル音楽事務所のミュンヘン支所、スタッフが出てきますが、
説明するほどのこともないかと思います。

まえがき」にオリキャラなどの説明がありますので、まだ読まれていない方はそちらを先にご覧ください。



J. S.Bach:Sicilienne 1/5


「今日はドイツ語のレッスンの日だったか……。」
独り言ちて彼はフィルハーモニー・ガスタイクから帰宅し、ベルを鳴らさず鍵でドアを開けた。

テレビモニターがオンになっているのか、リビングルームから賑やかな人の声や効果音が聞こえてくる。
「まさか、消さずに出かけたのか?」
カン・マエは呆れ顔で、リビングに入るとリモコンを探したが見当たらない。
ルミはいつもリモコンを一定の場所に置きそびれがちである、ありそうな場所に目をやるがどこにもない。
ドラマはどうやら日本のもの、アクションか刑事ものなのか登場人物が走り回っているシーンだ。
アップになった男は茶髪の優男である。

「ふん……。」
一瞥して口からふと洩れた息にはかすかに侮蔑を含んでいる。彼に対してではなくこういう男が世の女たちの興味の対象であるらしいことに、だ。
どこの国のものであれテレビドラマを滅多に見ることはないカン・マエは、この茶髪の優男が日本では超有名タレントであることを知らなかったが、何となくそう感じた。

階段を下る足音が聞こえてきた。
「あら、先生。どうしたの?」
ルミはまだ帰宅する時間でない夫がいるので、訊ねた。
「おまえこそ、テレビをつけっぱなしで……。今日は習い事じゃなかったのか?」
「そうだったんだけど、急にお休みになってね、ドラマを観ていて……。ちょっと急に用事を思い出して。」
「そういうことだったのか。それにしても、リモコンはちゃんと場所に置いておけよ。」
「あ、ごめんなさい。ここに入れたまま二階に行ちゃったのね。」
ルミはロングカーディガンの大きなポケットからリモコンを取り出して、テレビを消した。

「先生、今日はもうお仕事終わったの?」
こんな時ルミは上目づかいにじっと夫の顔を覗き込むものだが、一歩離れてぼんやりした声で言った。
それを気にしながらも、彼は応えた。
「いや、まだだ。ちょっと人に会うことになってな。借りていた本を取りに来たんだ。」
「今日は遅くなるの?」
「いや、そうでもないが、おまえはゆっくり続きを観ていればいい。」
カン・マエはドラマ好きのルミを察してそう言った。

ルミは頷くとスイッチを入れて、続きを観はじめた。

カン・マエは書斎から必要な本を取り妻に一声かけて出ようとリビングへ戻るが、ルミは彼に気づきもせず画面に見入っていた。
その横顔からして、うっとりしている様子だ。
もしや、さっきの優男に見蕩れているんじゃないだろうな、と思いながらしかしテレビの中の男を気にする自分の馬鹿さ加減に呆れた。

「おい、ルミ!」
夫の低い声にルミははっとして顔を上げて、それから立ち上った。
「行ってくる。」
夫の言葉にルミはぼんやりした笑みを浮かべて応えた。
「行ってらっしゃい。」
カン・マエは見慣れた妻の顔をまじまじと見つめる。
どうかしたの?と言いたげな妻に彼は言った。
「テレビ見ながら間食しすぎるなよ。」
ルミは無言で頷いた。
「帰りに甘いものでも買ってくるか?」と言うつもりだった。
言い慣れない上に、彼女がテレビドラマに気持ちが向いているのが面白くなかったからであろう。

ルミはカン・マエが家を出たことを確認すると、頭痛薬を飲んだ。
先日友だちによく効くと勧められた頭痛薬が二階に置いてある鞄の中に入れっぱなしになっていて、カン・マエが帰ってきたときはそれを取りにいっていたのだ。
軽い頭痛である、薬を飲めば数時間後にはいつもすっかり治っている程度だ。
カン・マエはルミのちょっとしたことでも過剰に心配するため、仕事の途中で帰宅した彼に頭が痛いなどと言いたくはなかったのである。


それから一週間ほど後のこと。

カン・マエは用事でマクダウェル音楽事務所のミュンヘン支所を訪れた。
ちょうど昼時に入るところで、ハンナという三十過ぎのスタッフを囲むようにして幾人かの女性たちがざわざわと何か珍しいことでもあるのか盛り上がっていた。彼に話の輪の外にいた男性スタッフが気が付いて、言った。
「あ、マエストロ、失礼しました。日本のドラマ撮影がウィーンであるそうで……。」
ふん、という面白くない表情でカン・マエは応える。
「珍しくもない話だろう?」
「ええ、そうなんですが、ハンナがそのドラマに出ているスターのファンなんですよ~。彼女は先生のことも大のお気に入り、とにかく東洋人男性が大好きだとか。」

カン・マエは話に乗らず仕事の話に入ろうとしたが、ハンナが皆に見せている大きな写真に目をとめた。
見覚えのある顔であるのも道理で、ルミが前に観ていたドラマに出ていた茶髪の軽そうな男……。そいつがこっちへ来るのか。
彼は幾分不機嫌な顔になったが、ふだん付き合いのない者には気が付かない程度だ。

「ウィーン楽友協会でロケするらしいよ。」
「うちのウィーンの事務所がオーケストラとかいろいろ手配するらしいって。」
ハンナたちのおしゃべりはまだ続いている。


カン・マエはその日の打ち合わせが早く終わり日の高い時間に帰宅すると、迎えに出たルミの目が赤い。
「どうしたんだ、ルミ?」
彼はさりげなく訊いた。
「もう、素敵すぎて泣けちゃった。」
なんだまたドラマかと彼は思った。
「悲しい話なのか?」
「そうじゃないんだけど、すごく感動して。」
「何を観ていたんだ?」
「これですよ。」
DVDのジャケットを見せた、例の茶髪の男が写っている。どうやら先日のドラマの続きらしい。

「ああ、そうだ、ルミ。この男が撮影でウィーンに行くらしいぞ。」
「先生知っているの?」
「おまえも知っているのか……。」
おまえもファンなのか?と聞けばいいのに聞かないところが、彼である。
そして聞かずにモヤモヤしている。
「でも、なんで先生が?日本の俳優に興味があるとは思えないのに。」
「ああ、なんでもクラシックの演奏家の役で、こちらでのコーディネートを私のエージェントが引き受けたんだ。今日事務所に行ったら、その話題で持ちきりだったんだ……。」
「え!凄い。キムサクってヨーロッパでも知られているのね。」
一人だけ熱烈なファンがいるだけなのだが、そう説明するのもヤキモチを焼いていると勘ぐられるのは癪なカン・マエだった。

カン・マエはスーツから普段着に着替え、ソファに座って本を読んだり、パソコンを開けてニュースなどを見ていた。

「おい、メシはまだか?」
「できているわ。今出しますね。ね、先生の事務所が関わるその……ドラマのことですけど、俳優さんのサインって頼めるかしら?」
サインまで欲しいのか、そんなにファンなのか、いつの間に……無表情の下にはルミへの苛立ちが生じていた。しかし、なんでここまで腹が立つのかカン・マエは自分のことなのにわからない。

「サイン頼めるかしら?」妻のたったその一言で夕食は台無しになってしまった。
食欲はあるのでルミの作ったツヴィーベルズッペ、シュニッツェルなどを勢いよく口にするが、とても味わっている風ではない。

ルミはきっと食後にしなければならない仕事があるのだと思った。
「おい、おまえもさっさと食べろ。」
「え?」
ルミはきょとんとしている。
「何かお手伝いすることでも?」
「今日はさっさと休むから、後片付けたらシャワーを浴びろ。」
そう言って、彼はバスルームに入って行った。
カン・マエはルミの体温を感じているだけでもよく眠れるので、ルミが先に休んでいない時は一緒にベッドに身を横たえるのだった。いつの頃からか、ルミは先に休むことはあっても彼より後にベッドに入ることは滅多にない。

カン・マエが不機嫌な理由がわからないルミは、ぼんやりしながら後片付けをしていた。
そこへ、日本の従姉から電話だ。二人とも今夢中になっている「ヒロイズム」の話、キムサクと枡たか子の話題で盛り上がっていた。
バスルームから出てきたカン・マエは食卓そのままで、電話でキャラキャラ笑いながらしゃべっているルミを見て眉を顰めた。
その様子にルミは気が付いて、そそくさと電話を切る。
「あ、先生。ごめんなさい、例のサインの件で従姉が……。」
またその話か、彼は無言で背を向けると寝室へ行った。
その後ろ姿に向かいルミは屈託のない声で言った。
「先生、疲れているんでしょう?待っていないで先に休んでいて下さいねー。」


何だかイライラしている主人に老犬のトーベンは付き合ってやっている。
「本当にあいつは、あんな男がいいのか?わからん。俺とは似ても似つかないではないか……。」
トーベンは「ワン!」と同意するように鳴いた、というよりも彼はそう思いこんだ。
「そうか、そうか、おまえもそう思うか……。」
「しかし、女っていうのはよくわからん。」
他の女はどうでもルミがどうしてキムサクのような男がいいのかわからず、本人に聞くこともできず困っているが、飼い主に忠実なトーベンにさえ本音を言いたくない。
言葉にすれば自分自身情けないからだ。
トーベンは眉間に皺を寄せてブツブツ言っている主人に、ちょっと呆れ気味だ。

やっとルミが寝室に入ってきた。
カン・マエは読んでいた本とメガネをサイドテーブルの上に置いた。
「先生、このパジャマ素敵でしょ。あのほら、例のドラマのDVDと一緒に従姉が送ってくれて……。あ、あの、それでお礼にサイン……。」
「わかった、わかった。頼んでおいてやる。おまえの分もな。」
カン・マエはこの件はもう終わりとばかりに、ベッドの端ににちょこんと座ったルミの手をひいて膝に彼女をのせると、その桜色の妻の唇を覆った。
サイン、なんで私の分?要らないのに、と言えないままルミは長いキスで体の力が抜け頭のなかが白くなりどうでもよくなってしまった。

ルミは唇が離れると、はぁーっと長く息を吐き、彼の胸にもたれたままつぶやいた。
「……先生、今日はあの。お疲れでしょう?」
低い声で彼は彼女の長い髪を梳くようになぜながら応える。
「いいや、疲れてなどいないぞ?」
ルミは彼の膝から降りて足を折ったまま左に投げ出して座り、右手の指はシーツの上に円を何度も書きながら小さな声で言った。
「だって昨日あんなに……。」
消え入るような声にカン・マエはやっと言いたいことを理解した。
昨日たっぷり愛し合ったばかり、一緒に暮らすようになった当初の頃は別にして連日になることは滅多にない。
彼はこともなげに言った。
「今日はずっとデスクワークばかりで運動不足だからよく眠れそうにない……。」
ルミの顔はみるみる不満そうになる。
「う、運動?もー、先生ったら。じゃ、一緒にスクワットでもしましょ!」

ぷんとふくらんだ頬のままベッドから降りて体操を始めたルミを見て、彼は口角を上げた。
決して口にはしないが彼女のふくらんだ頬は彼の一番の好物である、テレビの向こうの優男にイライラしていた気持ちを鎮めるのに十分な快さが心に満ちてきて、気分が一オクターブ上がった感じだ。

彼はひょいとベッドを降りて体操を始めた彼女の後ろに回り、背中から抱きしめた。
ルミは少しばかりもがいたが、力の入った腕に身体が溶けるような感覚になったのでそのまま彼の胸に寄りかかった。

ふうっと息を吐くのをうなじ越しに感じたカン・マエは、彼女の身体の向きを変えてその両腕に緩く抱えそして右手は柔らかな身体の感触を求め左手で若妻の顎をくいっと上げて、今度は彼女の唇の奥深く味わうキスをはじめた。


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